tetragonal distortion

某国立大学の若手教員のただの日記です

研究室の最適規模

私が所属する研究室はメンバー合計約50人で、専攻内の他の研究室(十数人~20人くらい)から比べると2~3倍くらいの大所帯である。

これまでうちのボスは数々の大型研究費を当ててポスドクや留学生を大量に受け入れて研究グループの規模を拡大してきた。

 

しかし、ここにきて雲行きが怪しくなってきている。

ボスが大型研究費の獲得に連続して失敗してしまったのである。

失敗したといってもその辺の研究グループよりはまあお金はある状態だが、なにせ人数が多いので何も買い物や出張をしなくても消耗品代やら故障した装置の修理費やらポスドクの人件費やらで年間5000-6000万円のランニングコストがかかる。

 

もし来年度までに何か数億円規模の研究費が当たらなかったら研究費で雇用していたポスドクたち全員の首を切らないといけないし、博士課程を終えた学生はすぐにどこか別の就職先に送り込まないといけない。

 

正直ポスドクたちは選り好みさえしなければどこにでも行けそうな強者揃いだが、博士課程の学生達は路頭迷うかもしれない。

 

というのも、ボスはたくさんの研究費を取ってきた結果、その研究費に関係する事務仕事や細々としたマネジメント仕事に時間を取られ続け(一部は若手に投げられ)、学生が執筆した論文の原稿がほとんどチェックできていないので、いつまでたっても論文が出せない悪循環に陥っているからである。一応、我々若手教員も添削したクオリティ的にも問題ない原稿ばかりだが、ボスの許可が下りるまでは投稿が出来ない。

 

かくいう私がボスの下でやった博士課程の研究に関する論文数本も書いて数年経つが未だにボスのところで止まっていて投稿に至っていない。まあ、真似されそうな内容でもないし、私の場合幸いにも任期が無いので開き直って気長に待つことにしている。

ひどい場合、人によっては原稿が10年近くボスのところで足止めされている。

 

ここ数年を見ていると研究室としては論文が数十本出ているが、ほとんどは他との共同研究でちょっと手伝ったので著者として名前を入れてもらっているもので、研究室のメンバーがボスの添削を経て投稿したのは年間5~6本くらいである。

(実際普通の人間が頑張っても添削できるのは1-2カ月に1本が限度だと思う。)

 

これはレアな話ではないと思う。似た話は世界中で聞くので、大所帯研究室のあるある話なのだろう。

 

こういった状況を見ていると、大きな研究費を当てるというのは、研究者として大きな名誉・ステータスだし、それでポスドクなどの雇用を生み出せば学界の後輩の育成にも寄与できるが、それが行き過ぎると事務仕事が忙しくなりすぎて逆に成果物*(つまり論文)が出なくなってしまうし、それで若手の業績リストもスカスカになって就職できなくなってしまう。

*人がたくさんいれば、生み出されるデータも多くなるので外から見えない成果は大量に溜まっている

 

ボスが研究費を獲得できなくなってきているのも、他の研究費の事務仕事でこれまでに比べて申請書の中身を練る時間が十分取れなくなってきているのが一つの原因だと思う。

 

以上をふまえると、成果物の量(と幸福度)が最大となる研究室の規模として適正なサイズがあるのだと思う。

 

今私はこの大所帯の中で十数人の学生達の主指導を担当しているが、論文の出版までのことを考えると、今くらいの人数がマネジメント出来る限界だと思う。

 

国立大学でも教員数が削減されて教員一人当たりが受け持つ学生の数は増える傾向はあるが、もし将来自分の研究室を持つようになったら定員は多くても20人くらいに制限したい(許されるなら10人くらいが理想)。